こんにちは。
時計修理の千年堂の田中です。
今日は頂いたメールを元に、メーカー修理と部品についてお話したいと思います。
千年堂御中
お早うございます。
修理完了品を確かに受領致しました。
丁寧な対応並びに発送をして頂き、気持ち良くお取引できました。有難うございます。
修理完了品は問題なく精確に時を刻んでおります。
ストップウォッチ機能も懐かしい秒針の動きが復活してとても嬉しいです。
製造されてから既に30年が経過しており、実はメーカーであるタグ・ホイヤー社に修理を依頼して見積もりをしてもらったのですが、
製造後年数が経過しており部品等の調達が困難であることを理由に修理を断られていました。
そういう経緯から御社でも無理だろうとダメ元で依頼を頼んだのが正直なところです。
御社の誠意ある対応並びに修理完了まで手を尽くして頂けて無事手許に稼働する状態で戻ってきました。
本当に有難いことです。
ヨーロッパでは古いものを大事にして代々受け継いでゆく文化がありますが、ホイヤー社からタグ・ホイヤー社へと経営母体が変化した時点でアラビア文化の企業へと体質変化してしまったせいか、誠意ある対応をメーカーにしてもらえず、今回の御社での修理となった次第です。
現在では稀少となった今回の修理品は非常に高品質の製品です。
一度手にしたら虜になるくらい精密で優雅な逸品であることは世界で認められているものだからこそ、メーカーが本来なら手を尽くして修理完了させるべき製品だと思っていますが、再び命を吹き込まれて動いている姿を見られて本当に幸せです。
御社の時計に対する取り組み姿勢には心から感謝致しております。有難うございました。
これからも大事に使い、このような世界に誇れる逸品を後世へと残していきたいと考えております。
また次の機会がありましたら、宜しくお願い致します。
※個人情報の関係上、一部省略しております。
非常に心のこもったお言葉を頂いてこの上なく嬉しい限りなのですが、改めて思ったことがあります。
それはここ最近、メーカーに修理を断られるケースが非常に多くなってきたということです。
メーカーで修理を受け付けてもらえず、私たち千年堂に相談される方も以前と比べてかなり増えてきています。
なぜメーカーに修理を断られる?
メーカーで修理受付不可となる理由の多くは、「部品がない」からです。
一般的にメーカー修理は、部品の交換を行います。
劣化した部品をそのまま使っていると時間が遅れたり故障の原因となったりするため、新しいものに交換して長く使えるようにメンテナンスを行うのです。
ところが海外メーカーの場合、販売を停止しておおよそ25年~30年以上経っている時計などはメーカーであっても部品がないことが多いのです。
(国内メーカーなどの場合、販売後、部品を保持する期間は7年程度というのが多いようです。)
上記のお客様の場合はタグ・ホイヤーの前身であるホイヤー製でもあり、製造から30年以上たっていたためメーカーにも部品がなかったのでしょう。
千年堂の修理の場合
一方で、私たち一般の時計修理会社も部品があるかと言われると実はそうでもなくて、年々部品の入手が難しくなってきています。
部品が入手しづらくなっているため、修理対応も徐々に難しくなってはきています。
ですが、部品を修正する、社外品を使うといった形で修理対応が可能なケースもあります。
交換頻度が多い部品や人気を博した時計などは社外品・合わせ部品などが作られやすいため、そういった部品の交換であればたとえメーカーで修理受付不可となった場合でも、修理対応は可能です。
逆に、新しい時計や交換頻度が少ない部品、特殊な時計の部品などは、私たち一般の時計修理会社では部品入手ができず、部品がないが故に、修理対応ができないということもあります。
私たち千年堂の時計で行う修理・オーバーホールというのは、まだ使用できると判断した部品は使用し、修正で対応できる部品は修正する。
外装を含むほとんどの部品を交換して全く別の時計になるというのを極力避け、できる限り元の状態に近いまま残すということを考えています。
この点においては、部品が豊富にあり、ミスしても交換し放題という修理とは違い、ミスをしたら自腹を切らざるを得ず、場合によっては部品が無いが分、修正でなんとか動かすようにする修理となるため、慎重かつ高い技術力が要求される部分でもあります。
今回は運良く部品の修正と調整のみで交換というのはなかったのですが、やはり非常に難しい修理でもありました。
すべての時計が修理できるというわけではありませんが、部品がないという理由でメーカーに修理を断られた場合であっても対応可能なケースもありますので、一度ご相談いただければと思います。